介護経営

介護施設の予実管理の始め方|完璧な予算より続く仕組みから作る

予実管理は経営会議を数字で動かすための土台ですが、最初から精緻な予算を作ろうとすると続きません。介護施設が予実管理を無理なく始め、月次の振り返りを習慣にするための現実的な進め方を、最初の一歩から順に整理します。

予実管理は「完璧な予算」より「続く仕組み」から始める

介護施設で予実管理を始めるとき、最初の結論はこれです。精緻な予算を作ることより、毎月『予定と実績を並べて差を見る』習慣を作ることを優先する。立派な予算を一度作っても、月次で振り返らなければ意味がなく、逆に簡単な目標値でも毎月見続ければ経営は変わります。

予実管理がうまくいかない施設の多くは、入り口でつまずいています。「まず正確な年間予算を作らないと」と気負い、作るのに時間がかかって息切れし、結局運用に乗らない——これが典型的な失敗です。大切なのは、続けられる粗さで始めて、運用しながら精度を上げていくことです。

予実管理がなぜ必要かという全体像は予実管理はなぜ必要かで整理しています。本記事は、それを「どう始めるか」という最初の一歩に絞ります。

なぜ予実管理が経営会議の土台になるのか

予算がないと、経営会議は「実績の報告会」で終わります。「先月の稼働率は85%でした」と聞いても、それが良いのか悪いのか、基準がなければ判断できません。

予算があれば、「目標88%に対して実績85%、3ポイント未達」という形になり、なぜ未達なのか・どうするのかという議論が生まれます。予実管理は数字を並べること自体が目的ではなく、経営会議を数字で動かすための土台です。予定という基準があって初めて、実績は意味を持ちます。

よくある課題

最初から完璧な予算を作ろうとして頓挫する

費目を細かく分け、根拠を積み上げて予算を作ろうとすると、完成する前に力尽きます。そして「来年こそ」と先送りされます。

予算を作って満足し、振り返らない

年度初めに予算を作ったものの、その後は実績だけを見て、予算と比べない施設があります。予算は立てたら終わりではなく、毎月実績と突き合わせて初めて機能します。

差異を眺めるだけで原因を追わない

予算と実績を並べた表は作るが、「売上が下回った」で止まってしまうケースです。原因まで分解しないと、来月の打ち手につながりません。

実務で起きる問題

ある介護法人の例です。経営改善のために予実管理を始めようと、コンサル資料を参考に費目を細かく分けた年間予算を作りました。作成に2か月かかり、完成した頃には期初の前提が変わっていました。さらに、その後は多忙で月次の振り返りができず、せっかくの予算は使われないまま終わりました。

翌年は方針を変え、稼働率・売上・人件費・営業利益・資金残高の5項目だけ、前年実績をベースに目標値を置く形にしました。作成は半日で済み、毎月の経営会議で実績と並べて差を確認する運用が定着。差異の原因を1つずつ追ううちに、稼働率の曜日別の落ち込みや残業の偏りが見えてきました。粗い予算でも、続けたことで経営の解像度が上がったのです。完璧を捨てたことが、かえって機能させる鍵になりました。

改善方法

ステップ1:見る項目を絞って前年実績から目標を置く

まずは稼働率・売上・人件費・営業利益・資金残高など数項目に絞ります。前年同月の実績を出発点に、今年の方針(定員変更・加算取得・賃上げなど)を加味して目標値を置きます。ゼロから積み上げる必要はありません。

ステップ2:月次決算の実績と並べる

月次決算で確定した実績を、立てておいた予算と並べます。ここで月次決算が早期化できていることが効いてきます。実績が遅れれば予実管理も遅れるためです。

ステップ3:大きい差異から原因を分解する

差異の金額が大きいものから、原因を分解します。売上未達なら稼働率か単価か、人件費超過なら残業か採用か派遣か。原因が分かって初めて、来月の打ち手が決まります。

ステップ4:経営会議で「差異と対策」を議論する

経営会議では、差異を報告するだけでなく、原因と来月の対策まで議論します。これを毎月繰り返すことで、会議が数字で動くようになります。

ステップ5:運用しながら項目と精度を上げる

数か月回せたら、見る項目を増やしたり、予算の精度を上げたりします。最初から完璧を目指さず、続けながら育てるのが定着のコツです。

関連サービス

経営会議資料作成の支援では、前年実績をベースにした無理のない予算づくりから、月次決算の実績と並べる予実表、差異の原因が分解できる資料まで、続けられる予実管理の形を整えます。経営会議が「報告会」から「差異と対策を議論する場」に変わるよう、数字で動く会議の土台づくりを支援します。

関連記事

よくある質問

#予実管理#経営会議#介護経営#月次管理#管理資料

執筆者

萩原裕司

公認会計士・税理士