介護施設では、予算と実績を毎月比較することで、稼働率低下・人件費増加・資金繰り悪化に早く気づけます。予実管理の重要性と導入の考え方を解説します。
感覚経営から数字経営へ
「先月と比べてどうか」は判断できるが、「計画と比べてどうか」が判断できない。こうした状態の介護施設は、問題が大きくなってから気づくリスクが高い状態にあります。
予実管理とは、あらかじめ立てた予算(計画)と実績を毎月比較する管理方法です。感覚ではなく数字で、経営の変化を把握するための基盤です。
予実管理とは何か
シンプルに言えば、「今月いくら売れる予定だったか」「実際はいくらだったか」「差異はなぜか」を毎月確認することです。
難しい仕組みは必要ありません。前年の月次実績をベースに、今年の計画稼働率・人件費の変化を加味した目安の数字をつくるだけで、予実管理の起点になります。
予算の精度より、「比べる基準を持つこと」の方が重要です。
介護施設で予実管理が重要な理由
介護施設は、収入の大部分が「稼働率×介護報酬単価」で決まります。人件費・家賃などの固定費は変わらないため、稼働率が想定より落ちると利益が計画を大きく下回ります。
予実管理がない施設では、この「下振れ」に気づくのが試算表が届く翌月末になります。問題が発生してから1か月以上経過してから初めて把握する状態です。
一方で予実管理を導入している施設では、月中や月末の段階で「今月の稼働率が予算より落ちている」と把握でき、翌月の対応策を早く検討できます。
予実管理がない施設で起きやすい問題
問題パターン1:稼働率の下振れに気づくのが遅い
入退去が続き稼働率が少しずつ落ちていても、月次で比較する基準がなければ「なんとなく利用者が少ない気がする」にとどまります。試算表が届いて数字が落ちていることを確認したときには、2〜3か月分の機会損失が発生していることがあります。
問題パターン2:人件費の増加が見えない
採用が増えた月に予実比較があれば「人件費が予算を超えた」とわかります。比較基準がなければ「採用したから増えた」という認識にとどまり、稼働率との関係で見直すきっかけができません。
問題パターン3:資金繰りの見通しが甘くなる
利益が計画を下回っている状態が続いていても、資金が不足するまで気づかないケースがあります。予実管理があれば、利益の下振れが積み上がった段階で資金繰りの見直しを検討できます。
最初に見るべき数字
予実管理を始めるにあたり、最初に比較すべき数字は以下の3項目です。
| 項目 | 予算(計画値) | 実績 | 差異 | |---|---|---|---| | 売上 | ○○万円 | ○○万円 | ±○○万円 | | 人件費 | ○○万円 | ○○万円 | ±○○万円 | | 営業利益 | ○○万円 | ○○万円 | ±○○万円 |
ここに稼働率(計画稼働率 vs 実績稼働率)を加えると、売上差異の原因が稼働率の問題かどうかを判断できます。
小さく始める予実管理の方法
ステップ1:前年の月次実績を予算の起点にする
精緻な予算は最初は不要です。前年の月次実績に、今年の稼働率計画・採用計画を加味した目安の数字を月別に並べるだけで始められます。
ステップ2:毎月、試算表が届いたら3項目を比較する
売上・人件費・利益の3項目について、予算vs実績を確認します。差異が一定額(例:10万円以上)を超えた場合は原因を確認するルールを設けます。
ステップ3:差異の原因を把握する
売上が予算を下回った場合、稼働率の問題か単価の問題かを確認します。人件費が予算を超えた場合、採用・残業・退職に伴うものかを確認します。原因がわかれば、翌月の対応策を考えられます。
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執筆者
萩原裕司
公認会計士・税理士