試算表はある。しかし、経営会議で使える資料がない。介護施設ではそのようなケースが少なくありません。管理資料の重要性と、見るべき数字を解説します。
試算表だけでは経営判断には不十分
試算表は毎月届いている。しかし、「今月の経営状態が良いのか悪いのか」が一目でわからない。介護施設の経営者からよく聞く声です。
試算表は科目別の数字の集積ですが、経営判断に使うには「何と比べているか」「どう動いているか」が必要です。稼働率・人件費率・加算の状況を含めた管理資料があって初めて、試算表の数字が意味を持ちます。
よくある問題パターン
「試算表だけある」状態
試算表は毎月来ているが、稼働率も人件費率もわからない状態です。売上の変動が稼働率の問題なのか、加算の問題なのか切り分けができないため、対応策が打てません。
経営会議に数字が出てこない
経営会議(または経営者と管理者の打ち合わせ)で、感覚的な話しか出ない状態です。「なんとなく稼働が下がっている気がする」という話はあるが、数値が根拠にならないため判断が遅れます。
稼働率・加算・人件費が別々に管理されている
稼働率は現場が把握、加算は事務担当者が把握、人件費は経営者が把握——という形で情報が分散しているケースがあります。この状態では、稼働率が下がったときの人件費へのインパクトや、加算の算定状況の変化が経営数値とつながりません。
経営会議で見るべき5つの数字
1. 稼働率(利用率)
当月の稼働率と前月・前年同月比を確認します。入退去の動きと合わせて見ることで、稼働率変動の原因を把握できます。
2. 人件費率(人件費÷売上)
介護事業では人件費が売上の60〜70%を占めることも多いです。月次で人件費率を確認することで、稼働率の変動に対して適正な人員配置ができているかを判断できます。
3. 加算取得状況
処遇改善加算・各種サービス加算の取得状況と請求額を確認します。前月比で変動があった場合は原因を確認します。
4. 資金繰り・現預金残高
当月末の現預金残高と向こう2か月の入金・支出見込みを確認します。介護報酬は約2か月後の入金のため、先の資金繰りを月次で把握することが必要です。
5. 利益推移(前月比・前年比)
月次の利益が改善しているか悪化しているかを、前月・前年同月と比較します。単月ではなく推移で見ることで、季節変動と構造的な問題を区別できます。
管理資料がないと起きること
あるグループホームでは試算表は毎月受け取っていましたが、稼働率・人件費率の確認は年次決算のときだけでした。結果として、人件費率が月次で少しずつ上昇していたことに気づかず、半期の段階で利益が想定より大幅に下回る状態になっていました。
月次で人件費率と稼働率を確認していれば、2〜3か月前の段階で人員配置の見直しを検討できたはずです。
管理資料の整備ステップ
ステップ1:フォーマットを決める
最初はシンプルで構いません。稼働率・人件費率・現預金残高・加算請求額の4項目を毎月記録するだけでも、月次管理の起点になります。
ステップ2:報告のタイミングを固定する
毎月何日に誰が資料をまとめるかを決めます。試算表の完成タイミングと合わせて、翌月15日前後を目安にします。
ステップ3:月次会議で使う
管理資料を経営会議(または月次レビュー)で必ず使うルールにします。確認事項と判断基準を事前に決めておくことで、「資料を作るだけで使われない」状態を防ぎます。
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執筆者
萩原裕司
公認会計士・税理士