財務会計は税務申告のための数字、管理会計は経営判断のための数字です。試算表は届くのに経営に使えないという介護施設の多くは、この違いを整理できていません。両者の役割の違いと、介護事業で管理会計をどう持つべきかを実務目線で整理します。
財務会計は「申告のため」、管理会計は「経営判断のため」
介護施設で「試算表は毎月届くのに経営に使えない」という悩みの多くは、財務会計と管理会計の違いを整理できていないことから来ています。結論はシンプルで、財務会計は税務申告や決算書を作るための数字、管理会計は経営判断をするための数字です。目的が違うので、見え方も使い方も変わります。
試算表は財務会計の成果物です。法人全体の収益と費用を会計ルールに沿ってまとめたもので、税務署や金融機関に説明するためのものです。一方、経営判断に必要なのは「どの事業所が利益を出していて、どこが赤字か」「稼働率と人件費率はどう動いたか」といった、社内向けに組み替えた数字です。これが管理会計です。
両者は土台となる仕訳データは同じでも、まとめ方と目的が違います。試算表だけを見て経営判断に使えないと感じるのは、財務会計の数字を管理会計の用途で使おうとしているからです。
なぜ介護施設で管理会計が必要になるのか
介護事業は、複数の事業所やサービスを運営する法人が多く、それぞれで稼働率も人件費率も加算の状況も異なります。ところが財務会計の試算表は、これらを一つに合算してしまいます。
法人全体では黒字でも、内訳を分ければ稼働率の高いデイサービスが、立ち上げ中の訪問介護の赤字を埋めているだけ、ということが起こります。合算した数字だけを見ていると、伸ばすべき事業も止めるべき判断も見えません。事業所別・サービス別に損益を分け、介護特有の指標を加えて初めて、どこに手を打つかが判断できます。これが管理会計の役割です。
事業所別に損益を分ける具体的な方法は介護事業の部門別・サービス別損益管理で整理しています。
よくある課題
試算表=経営数字だと思っている
毎月試算表が届いているので数字は管理できている、と考えてしまうケースです。試算表は財務会計の合算値で、経営判断に必要な内訳や指標は含まれていません。
事業所別に分けられていない
会計データが法人全体でしか集計されておらず、どの事業所がいくら利益を出しているか分からない状態です。これでは管理会計の出発点に立てません。
経営指標が会計の外にある
稼働率や人件費率を現場が別管理していて、会計の数字とつながっていないケースです。財務会計の損益と介護の指標が分断されていると、原因の分析ができません。
実務で起きる問題
ある複数事業所を運営する介護法人の例です。顧問税理士から毎月試算表は届いていましたが、法人全体の合算のみで、役員は「全体では黒字だが、どの事業所が貢献しているのか分からない」と感じていました。新規開設したショートステイの調子を聞かれても、感覚でしか答えられない状態でした。
そこで会計データを事業所別に区分し直し、各事業所の稼働率と人件費率を並べた管理資料を月次で作る形に変えました。すると、主力の有料老人ホームが利益の大半を稼ぐ一方、ショートステイは稼働率が想定を下回って赤字が続いていることが数字で見えました。財務会計の試算表では「全体黒字」で埋もれていた問題が、管理会計に組み替えたことで表面化したのです。役員はショートステイの稼働改善に的を絞って動けるようになりました。
改善方法
ステップ1:財務会計と管理会計の役割を分けて考える
試算表(財務会計)は申告と決算のため、管理資料(管理会計)は経営判断のため、と用途を切り分けます。試算表に経営判断の機能まで求めないことが出発点です。
ステップ2:会計データを事業所別・サービス別に区分する
仕訳の入力時に事業所や部門の区分を付け、集計できる状態にします。クラウド会計の部門機能を使えば、特別なシステムがなくても区分集計はできます。
ステップ3:介護の経営指標を会計の数字と並べる
事業所別の損益に、稼働率・人件費率・加算の状況を並べます。会計の数字と現場の指標がつながって初めて、差の原因が追えるようになります。
ステップ4:毎月同じ形で経営会議に乗せる
管理会計の資料は、毎月同じ形で経営会議に出し続けることで価値が出ます。形を固定し、事業所別の損益と指標を定点観測する流れを作ります。
関連サービス
経営会議資料作成の支援では、財務会計の試算表を土台に、事業所別・サービス別に組み替えた管理会計の資料づくりを支援します。会計の損益に稼働率・人件費率・加算の状況を並べ、経営会議でどの事業所に手を打つべきかが判断できる形に整えます。試算表が届くだけの状態から、数字で経営判断できる状態への橋渡しを行います。
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よくある質問
執筆者
萩原裕司
公認会計士・税理士