入退去情報が経営層に届かず、稼働率低下に気づくのが遅れる——介護施設でよくある問題です。入退去フローを整備し、稼働率を月次で把握するための実務的な方法を解説します。
稼働率低下に気づくのはなぜ遅れるのか
介護施設で「稼働率が下がっていた」と気づくのは、多くの場合、試算表が届いた後です。しかし試算表が翌月末にしか届かない環境では、稼働率低下が始まってから気づくまでに1か月以上かかります。さらに介護報酬の入金は約2か月後のため、稼働率低下の影響が資金繰りに出るのは気づいてからさらに先のことになります。
この連鎖を断ち切るには、稼働率を試算表とは別に月次で早期に把握する仕組みが必要です。その中心になるのが、入退去フローの整備です。
入退去フローが整備されていない施設の特徴
現場止まりの情報
入居・退去の情報は、現場スタッフや介護事務には伝わっています。しかしその情報が施設長・管理者・経営者に月次でまとまった形で届いていないケースがあります。「なんとなく最近入居者が減っている気がする」という感覚的な把握にとどまっている施設が少なくありません。
集計の仕組みがない
月次の入退去人数・空床日数を集計する担当・タイミング・フォーマットが決まっていないため、月次数字として記録されていません。請求ソフトに入力はされていても、経営用の集計には使われていないことが多いです。
試算表が届いた時点で初めて気づく
試算表の売上欄を見て「先月より売上が落ちた」と気づく——この構造では、対応が常に後手になります。売上が落ちた理由(稼働率なのか、加算なのか)も試算表だけでは切り分けられません。
入退去フロー整備の実務ステップ
ステップ1:集計担当と集計タイミングを決める
毎月何日に、誰が、何の情報をまとめるかを決めます。翌月10〜15日を目安にすると、試算表の早期化(翌月15日以内)と合わせて月次確認ができます。
具体的に集計する情報は以下の4項目です。
| 項目 | 内容 | |---|---| | 月末利用者数 | 月末時点の入居者(利用者)数 | | 当月入居人数 | 当月に新規入居した人数 | | 当月退去人数 | 当月に退去した人数 | | 空床日数 | 月中に空きがあった延べ日数 |
ステップ2:既存ツールから転記する
新しいシステムを導入する必要はありません。介護請求ソフトや入居管理台帳にすでに記録されているデータを、月次でExcelやスプレッドシートに転記するだけで集計できます。
ステップ3:稼働率を算出して月次資料に加える
稼働率の計算式は「月間延べ利用者数 ÷(定員 × 稼働日数)× 100」です。これを月次の経営資料に毎月記載し、前月・前年同月との比較ができる形にします。
ステップ4:退去理由を記録する
退去時に理由を簡単にメモします(死亡・施設移転・医療対応・家族都合など)。退去理由の分類が積み上がることで、対応可能な退去と対応困難な退去を区別でき、改善のヒントになります。
稼働率低下を早期に把握した場合の対応
稼働率低下を早期に把握できると、以下の対応が取れます。
- 相談員・ケアマネジャーへの情報発信を強化する
- 地域の紹介ネットワークに働きかける
- 一時入居・短期利用など空床を活用できる形態を検討する
- 翌月以降の資金繰りへの影響を先読みして、必要な対応をとる
問題に早く気づければ、対応の選択肢は広がります。試算表を待たずに稼働率を把握できる体制が、経営の安定に直結します。
関連記事
よくある質問
関連サービス
執筆者
萩原裕司
公認会計士・税理士