介護施設では、空床が数床発生するだけでも売上・利益・資金繰りに影響します。空床管理の重要性と、稼働率低下を早期に把握するための月次管理の考え方を解説します。
空床2〜3床で利益は大きく変わる
介護施設において、「空床が少し出ている」は経営上の問題です。小さな空きに見えても、月単位・年単位で積み上がると利益と資金繰りに直接影響します。
特に施設系(グループホーム・有料老人ホームなど)は固定費型のビジネスです。人件費・家賃は利用者数に関係なくかかり続けるため、稼働率が落ちた分だけ利益が減ります。
介護施設で空床管理が重要な理由
介護施設の収益構造は「利用者数×単価」で決まります。利用者が1人いなければ、その分の介護報酬は発生しません。
通所介護・グループホーム・有料老人ホームのいずれも、定員を満たした状態での収入を前提に固定費を組んでいることが多いです。そのため、空床が続く状態は「想定した収入が入ってこない」状態であり、利益が計画より下振れすることになります。
さらに、介護報酬の入金は約2か月後です。稼働率が下がっても、その影響が資金繰りに出るのは先のこと。問題を感じた時点では、すでに数か月分の影響が積み上がっているケースがあります。
空床が利益・資金繰りに与える影響
定員20名の住宅型有料老人ホームで考えてみます。
| 状態 | 前提との差 | |---|---| | 満室(20名) | — | | 空床2名(稼働率90%) | 月10〜20万円の収入減 | | 空床4名(稼働率80%) | 月20〜40万円の収入減 |
これが半年続いた場合、60〜240万円の収入差になります。固定費が変わらないなかでこの差は、利益に直結します。
加えて、介護報酬の入金が約2か月後である点を考えると、資金繰りへの影響は「空床に気づいてから」さらに2か月先に出てきます。空床管理が遅れると、その分だけ対応の余地が狭まります。
稼働率低下に気づくのが遅れる施設の特徴
入退去の情報が現場で止まっている
施設内では入退去を把握しているが、経営者や管理者に月次で報告されていない。「なんとなく空きが出てきた」という感覚はあるが、数字で確認できていない状態です。
試算表の到着が翌月末
試算表が翌月末にしか届かない環境では、稼働率の変化に気づくのが1か月以上遅れます。空床が続いている間も対応が打てないまま時間が経ちます。
稼働率を数値で確認していない
月次の管理資料がなく、試算表の売上欄だけを確認している施設があります。この状態では売上が落ちていることはわかっても、それが稼働率の問題なのか、加算の問題なのかが切り分けられません。
月次管理で確認すべき数字
空床管理の観点で月次に確認する数字は、以下の4つが基本です。
1. 月間稼働率
当月の稼働率(延べ利用者数÷定員×稼働日数)を計算します。前月・前年同月との比較で変動を把握します。
2. 空床日数・空床延べ人数
稼働率だけでなく、実際に空床が何人日発生したかを記録します。「空床が月に○人日あった」という形で把握することで、影響を具体的に確認できます。
3. 入退去の状況
当月の入居・退去人数を月次で集計します。退去が増えている月は翌月以降の稼働率に影響するため、先の動きを予測する材料になります。
4. 人件費率との比較
稼働率が落ちたのに人件費が変わっていない場合、人件費率が上昇します。稼働率と人件費率は必ずセットで確認することが必要です。
改善方法
入退去報告のフローを決める
毎月何日に誰が入退去を集計・報告するかを決めます。既存の請求ソフトや入居管理の記録を使えば、手間をかけずに月次集計できます。
翌月10〜15日に稼働率を確認する
試算表の早期化(翌月15日前後を目安)と合わせて、月次で稼働率を確認するタイミングを固定します。これだけで、問題への気づきが1か月以上早まります。
空床発生時の対応ルールをつくる
空床が一定数以上になったときに何をするか(相談員への情報共有・地域連携の強化など)をあらかじめ決めておきます。数値を確認するだけでなく、確認後に何をするかまでセットにすることで、管理が行動につながります。
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執筆者
萩原裕司
公認会計士・税理士