利益が残らない介護施設に共通するのは、人件費を「感覚」で管理していることです。人件費率・稼働率との関係・採用と過剰配置のバランス、月次で確認すべき3つの視点を実務目線で解説します。
結論:利益が残らない介護施設は、人件費を「感覚」で管理している
経営が苦しい介護施設に共通するパターンがあります。それは「人件費の状況を感覚で把握している」ことです。
「そんなに人件費がかかっているとは思わなかった」「採用を増やしたら利益が消えた」「稼働率が下がったのに人員はそのままだった」——これらはすべて、月次で人件費を数字で確認していれば、少なくとも早期に気づけた問題です。
視点1:人件費率を月次で把握する
介護事業における人件費率は、売上(介護報酬収入)に対する人件費の割合です。サービス種別によって異なりますが、おおむね60〜70%が目安となります。
重要なのは「目安の数字に収まっているかどうか」ではなく、自施設の人件費率が月ごとにどう変化しているかを追うことです。
たとえば前月比で人件費率が3%上昇していたとします。売上が100万円であれば3万円の超過です。「3万円ぐらい」と感じるかもしれませんが、年間で36万円の差になります。
この変化に翌月気づけるかどうかで、対処の選択肢が大きく変わります。
よく見る失敗:人件費率を年1回しか確認しない
決算書が届いたタイミングで初めて人件費率を確認する施設があります。この場合、過去12か月の超過が既成事実になっています。月次で確認していれば、3〜4か月目には傾向を掴んで対策を打てたはずです。
視点2:稼働率と人件費の関係を同時に見る
介護施設の経営で最も注意が必要な数字の組み合わせが、稼働率と人件費率の同時把握です。
稼働率が高い時期は売上が増え、人件費率が相対的に下がります。逆に稼働率が落ちると、売上は減りますが人員はすぐに減らせないため、人件費率が上がります。
この構造を理解せず、「先月より利益が減った理由がわからない」という施設が実際に多いです。数字を並べて見れば稼働率の低下が原因だと分かるのですが、月次管理をしていないと「気づいたら利益が消えていた」という状態になります。
稼働率低下に気づくタイミングが重要
稼働率が落ち始めたタイミングで把握できれば、入居促進・広報強化・営業活動などの対策を早めに始められます。しかし試算表が翌月末にしか届かない状態では、稼働率低下の影響を試算表上で確認できるのが2〜3か月後になります。
入居促進の効果が出るまでにも時間がかかるため、気づきが遅れると資金繰りへの影響が直接的になります。
視点3:「採用不足」と「過剰配置」の両方に目を向ける
介護事業の人件費問題には、2つの方向性があります。
採用不足(人員が足りない状態) 人員配置基準を満たすために外部委託・派遣を使わざるを得ない状態が続くと、人件費が想定以上に膨らみます。採用コスト・派遣費用が積み重なって、人件費率が80%を超えるケースも起きます。
過剰配置(人員が多すぎる状態) 稼働率が落ちても人員がそのまま残るケース。処遇改善加算の要件維持のために人員を減らせない、あるいは「いなくなると困る」という感情的な判断で配置を維持してしまうことがあります。
どちらも「感覚経営」から来ています。月次で稼働率・人件費・人件費率を数字で確認することで、「今は過剰なのか、不足しているのか」という判断がしやすくなります。
月次で確認すべき最低限の4項目
人件費管理のために毎月確認すべき数字を絞るとすれば、以下の4項目です。
- 稼働率(今月の利用実績 ÷ 定員)
- 人件費総額(給与・賞与・社会保険料を含む)
- 人件費率(人件費 ÷ 売上)
- 前月・前年同月との比較
この4項目をA4一枚の管理資料にまとめて毎月確認するだけで、経営判断の質が変わります。複雑な資料である必要はありません。続けられる形であることが最優先です。
管理資料がない施設で起きやすいこと
月次の管理資料がない施設では、こういったことが実際に起きます。
- 「なんとなく採用を増やした → 気づいたら人件費率が75%になっていた」
- 「稼働率が下がったのに気づかず、翌月の支払いで初めて資金が苦しいと気づいた」
- 「税理士から届いた試算表を見て問題が発覚したが、もう2か月経過していた」
管理資料があれば防げた問題ばかりです。管理資料を作ることが目的ではなく、月次で数字を見る習慣が目的です。
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執筆者
萩原裕司
公認会計士・税理士