介護経営

介護施設で資金繰りが悪化しやすい理由とは?利益が出ていてもお金が減る原因

「黒字なのに資金が苦しい」という状態は、介護事業に構造的に起きやすい問題です。介護報酬の入金タイムラグ・人件費の先行支払い・加算請求のズレなど、利益とキャッシュが乖離する5つの原因を解説します。

結論:利益とキャッシュは別物。介護事業はその乖離が特に大きい

税務申告や月次決算で「利益が出ている」という数字が出ていても、口座残高が毎月減っているという状態は、介護事業では珍しくありません。

この現象の根本は、「損益計算書の利益」と「実際に口座に入ってくるキャッシュ」が一致しないことにあります。これは会計の基本的な構造ですが、介護事業はその乖離が特に大きくなりやすい事業です。


原因1:介護報酬の入金は2か月後

介護事業の収入の大半を占める介護報酬は、サービスを提供した月にすぐ入金されません。

  • 1月:利用者にサービス提供
  • 2月10日:国保連へ請求
  • 3月末(約25日):介護報酬が口座に入金

つまり、今月10人分のサービスを提供しても、その収入が実際に口座に入るのは2か月後です。

損益計算書では1月に「売上」として計上されますが、キャッシュは3月末まで入ってきません。1月・2月の人件費・家賃・光熱費はリアルタイムで発生するため、収支は黒字でも口座残高が下がり続けることがあります。


原因2:人件費はサービス提供当月に発生する

介護事業は人件費比率が高く、売上の60〜70%に達することも多いです。

給与は月末または翌月初旬に支払われますが、その月のサービス提供と同時に発生します。介護報酬の入金が2か月先であるのに対して、人件費の支払いは翌月に来ます。

稼働率が安定している時期はこのズレを吸収できますが、開設直後や利用者が急増している局面では、収入の入金前に支出が重なり、一時的な資金不足が発生しやすくなります。


原因3:加算請求のズレと漏れ

処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算など、介護事業には様々な加算があります。

これらの加算は計画書・実績報告・適切な人員配置など、一定の要件を満たすことで算定できます。しかし要件管理が不十分で「本来算定できるのに請求できていない」あるいは「過去に算定ミスがあり返還請求が発生する」という状況が起きることがあります。

加算の返還請求は予期しないタイミングで発生するため、資金繰りに直接影響します。月次で加算の状況を確認することが、このリスクを下げる最も有効な方法です。


原因4:設備投資・修繕費が集中するタイミング

介護施設は設備の維持管理が必要です。エレベーターのメンテナンス・空調の更新・浴室設備の修繕など、まとまった費用が発生することがあります。

損益計算書では減価償却として分割計上されますが、実際のキャッシュアウトは支払い時点で一括発生します。「今期の利益は出ているが、設備更新が重なって口座残高が減っている」というケースは実務でよくあります。


原因5:稼働率低下時に固定費が変わらない

稼働率が低下すると収入(介護報酬)が減りますが、人件費・家賃・光熱費などの固定費はすぐには変わりません。

問題は、稼働率低下が試算表として見えるのが1〜2か月後になりがちな点です。「今月の稼働率が下がっている」という事実を月初に把握できる体制があれば、翌月以降のシフト調整・稼働改善の検討をすぐに始められます。しかし試算表が翌月末にしか届かない施設では、稼働率の変化に気づいて動けるのが3か月後になります。


「黒字倒産」に近い状態を防ぐために

上記5つの原因が重なると、損益計算書上は黒字なのに、口座残高が底をつきそうになるという事態が起き得ます。これは「黒字倒産」と呼ばれる現象に近い状態です。

この状態を防ぐためのアプローチは2つです。

1. 資金繰り表を月次で作成・更新する

月次の入出金予測を3か月先まで表にまとめます。介護報酬の入金タイミングを把握した上で、給与支払い・固定費・税金納付のタイミングと突き合わせると、資金不足が発生しそうな月を事前に把握できます。

問題が起きる前に把握できれば、金融機関への融資相談・支出の抑制・加算請求の見直しといった対策を事前に打つことができます。

2. 月次決算を早期化して「今の状況」を早く把握する

試算表が2か月遅れている施設では、稼働率低下・人件費増加・加算の問題に気づくのが構造的に遅くなります。翌月中旬に試算表が完成する体制を作ることで、問題を早期に発見し、対処できる余地が生まれます。


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よくある質問

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執筆者

萩原裕司

公認会計士・税理士