法人全体では黒字でも、内訳を分ければ赤字の事業所が隠れていることがあります。介護法人で赤字事業所を早く見つけるには、事業所別損益と稼働率・人件費率をどう見ればよいか。合算では見えない赤字の見つけ方を実務目線で整理します。
赤字事業所は「事業所別に分けて」初めて見える
複数の事業所を運営する介護法人で赤字事業所を見つける方法は、突き詰めると一つです。会計データを事業所別に分けて、それぞれの利益を出すこと。法人全体の試算表を眺めているかぎり、赤字事業所は黒字事業所の利益に埋もれて見えません。
法人全体が黒字でも、それは稼いでいる事業所が赤字の事業所を補っている結果であることが多くあります。合算の数字に安心していると、赤字が静かに全体の利益を削り続けます。赤字事業所を早く見つけて手を打つほど、法人の利益は守られます。
事業所別に損益を分ける考え方は介護事業の部門別・サービス別損益管理で整理しています。本記事は、分けた数字から「どう赤字を見抜くか」に絞ります。
なぜ合算の黒字が危ないのか
法人全体の試算表は、すべての事業所の収益と費用を一つにまとめています。主力の有料老人ホームが大きく稼いでいれば、立ち上げ中の事業所や稼働率の落ちた事業所が赤字でも、全体では黒字に見えてしまいます。
この状態の怖いところは、問題が起きていることに気づけない点です。黒字だから大丈夫だと判断し続けるうちに、赤字事業所の損失は積み上がります。気づいたときには主力事業所の利益を大きく食っていた、ということになりかねません。事業所別に分けることは、問題を早期に発見するための仕組みです。
よくある課題
会計が法人全体でしか集計されていない
仕訳に事業所の区分が付いておらず、事業所ごとの損益が出せない状態です。これでは赤字事業所を特定する出発点に立てません。
共通経費の配賦ルールがない
本部費や共通の経費をどの事業所に割り振るか決まっておらず、事業所別損益が実態とずれてしまうケースです。簡単なルールでよいので決めておく必要があります。
赤字の原因を稼働率・人件費まで分解しない
事業所が赤字だと分かっても、「なぜ赤字なのか」を稼働率や人件費率まで追わないと、改善も撤退も判断できません。
実務で起きる問題
3つの事業所を運営する介護法人の例です。法人全体では毎年黒字で、役員も特に問題を感じていませんでした。ところが事業所別に損益を分けてみると、開設2年目のデイサービスが継続的に赤字で、その損失を有料老人ホームの利益が埋めている構図が見えました。
赤字の原因をたどると、デイサービスの稼働率が想定の7割程度にとどまり、それでも人員は当初の配置のまま維持していたため人件費率が高止まりしていました。全体黒字に隠れて2年間気づかれず、累積の損失はそれなりの額になっていました。原因が稼働率と人員配置にあると分かったことで、送迎エリアの見直しと配置の調整に的を絞って動けるようになりました。早く事業所別に分けていれば、損失はもっと小さく抑えられたはずです。
改善方法
ステップ1:会計データを事業所別に区分する
仕訳の入力時に事業所の区分を付け、事業所ごとの収益・費用を集計できる状態にします。クラウド会計の部門機能で対応できます。
ステップ2:共通経費の配賦ルールを決める
本部費や共通経費は、利用者数や売上比などの簡単なルールで各事業所に割り振ります。完璧でなくてよいので、毎月同じルールで配賦することが大切です。
ステップ3:事業所別の営業利益を並べる
各事業所の営業利益を一覧で並べ、赤字や利益の薄い事業所を特定します。ここまでで「どこが赤字か」が見えます。
ステップ4:赤字事業所の稼働率・人件費率・加算を確認する
赤字事業所について、稼働率・人件費率・加算の状況を確認し、原因を分解します。多くは稼働率の低さか人件費率の高さに表れます。
ステップ5:改善余地と撤退判断を分けて考える
原因が分かったら、改善できるものか、構造的に難しいものかを見極めます。稼働率や配置で改善できる余地があるなら手を打ち、それでも難しければ撤退の判断に進みます。
関連サービス
事業別・部門別損益管理の支援では、会計データを事業所別に区分し、共通経費の配賦ルールを整えたうえで、事業所ごとの営業利益と稼働率・人件費率を並べた資料を作ります。全体黒字に隠れた赤字事業所を早期に見つけ、その原因が稼働率なのか人件費なのかまで分解できる形に整えます。改善か撤退かの判断に使える数字づくりを支援します。
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よくある質問
執筆者
萩原裕司
公認会計士・税理士