介護施設の損益計算書は、上から順に眺めても経営判断には使えません。介護報酬収入・人件費・加算をどの順で読み、どこで利益が決まるかを、施設経営の実務に沿って解説します。
損益計算書は「上から順」では読まない
介護施設の損益計算書(P/L)を渡されたとき、上から順番に眺めても経営判断にはつながりません。先に見るべきは、売上高(介護報酬収入)と人件費の2つです。介護施設は売上の多くが稼働率で決まり、費用の多くが人件費で占められます。つまり、この2つの関係でほぼ利益が決まります。
営業利益の数字だけを見て「黒字だから大丈夫」と判断する施設は少なくありません。しかし、利益が出ていても、人件費率が少しずつ上がっていたり、加算の取得漏れで本来の収入を取りこぼしていたりすることがあります。損益計算書は、どの数字とどの数字の関係を見るかで、得られる情報がまったく変わります。
なぜ介護施設のP/Lは読み方に注意が必要なのか
一般的な事業のP/Lと違い、介護施設のP/Lには独特の事情があります。
売上が制度で決まる
介護報酬は単価が制度で定められており、売上は基本的に「単価 × 利用実績 × 加算」で構成されます。値上げで売上を伸ばせる業種と違い、売上を動かす要素は稼働率と加算取得に限られます。だからこそ、損益計算書の売上高は「稼働率と加算が反映された結果」として読む必要があります。
費用の構造が人件費に偏る
介護はサービス業であり、費用の大部分が人件費です。さらに、人件費は給与手当だけでなく、法定福利費・派遣費用・処遇改善加算の対象人件費に分散します。給与手当の科目だけを見て「人件費は問題ない」と判断すると、実態を見誤ります。
よくある「読み違い」
実務でよく見かける、損益計算書の読み違いを挙げます。
営業利益だけを見て安心する
「今月も黒字」で終わってしまい、人件費率の上昇や稼働率の低下というサインを見逃すケースです。利益額は結果であり、その手前の売上と人件費の動きを見ていないと、来月以降の悪化を予測できません。
人件費を給与手当の科目だけで見る
派遣スタッフへの依存が進むと、給与手当は減っても派遣費用(外注費や業務委託費として計上されることが多い)が増えます。給与手当だけ見ていると「人件費が下がった」と誤解しますが、実質的な人件費総額は増えていることがあります。
前月・前年と比べていない
単月の損益計算書だけを見ても、良し悪しは判断できません。前月比・前年同月比で、売上・人件費率・営業利益の推移を追うことではじめて、変化の方向が見えます。
経営判断に使う読み方の手順
損益計算書を経営に使うには、次の順で読みます。
手順1:売上高(介護報酬収入)を稼働率とセットで見る
売上が前月より落ちていれば、まず稼働率を確認します。稼働率が下がっていないのに売上が落ちている場合は、加算の取得漏れや要介護度構成の変化を疑います。
手順2:人件費を「実質総額」と「人件費率」で見る
給与手当・法定福利費・派遣費用を合算した実質人件費を、売上に対する比率(人件費率)で確認します。比率が上がっていれば、稼働率の低下か、人員配置の過剰か、派遣依存の進行のいずれかが起きています。
手順3:その他の固定費を確認する
家賃・水光熱費・委託費などの固定費は、急に変動しないため、前年同月と比べて異常がないかをざっと確認します。
手順4:営業利益を「結果」として確認する
ここまで見たうえで、最後に営業利益を確認します。営業利益は手順1〜3の積み上げの結果であり、利益額の増減の理由がすでに説明できる状態になっているはずです。
具体例:黒字でも内容が違う2つの施設
同じ営業利益200万円の2施設があったとします。A施設は稼働率95%・人件費率60%で達成した200万円。B施設は稼働率88%だが派遣を絞り人件費率58%に抑えて達成した200万円。利益額は同じでも、A施設は稼働率に余力がなく今後の上振れが小さい一方、B施設は稼働率を戻せば利益を伸ばせる余地があります。営業利益の数字だけを見ていては、この違いは見えません。P/Lは利益額ではなく、利益が「どう作られたか」を読むものです。
複数サービスなら部門別で読む
訪問介護・通所介護・施設入居など複数のサービスを運営している法人では、全体合算の損益計算書だけでは「どのサービスが儲かっているか」が見えません。サービス別・拠点別に損益を分けた部門別損益計算書を作ることで、採算の良いサービスと悪いサービスが分かれて見えてきます。
部門別損益の作り方は、別記事で詳しく解説しています。
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執筆者
萩原裕司
公認会計士・税理士