複数の施設・事業所を運営していると、全体では黒字でも、実はどこかの拠点が赤字を別の拠点が補っていることがあります。拠点別・サービス別に損益を分けて見える化し、問題のある拠点を早く特定する方法を解説します。
全体が黒字でも、安心はできない
複数の施設・事業所を運営している介護法人で、よくある状況があります。「会社全体では黒字なのに、なぜか資金繰りが楽にならない」——この感覚は、利益を出している拠点が、赤字の拠点を補っているサインであることがあります。
全体を合算した試算表だけを見ていると、この構造は見えません。どの拠点が稼ぎ、どの拠点が足を引っ張っているのか。それを把握するには、拠点別・サービス別に損益を分けて見る必要があります。拠点別損益を毎月並べてはじめて、手を打つべき場所が特定できます。
合算の数字が隠してしまうもの
全体合算の損益計算書には、便利さと危うさが同居しています。会社全体の利益はひと目で分かりますが、その内訳は見えません。
たとえば、3拠点を運営する法人で全体の営業利益が300万円だったとします。内訳を見たら、A拠点が+400万円、B拠点が+100万円、C拠点が−200万円だった——というケースは珍しくありません。合算では「黒字300万円」で安心してしまいますが、実際にはC拠点の赤字が放置され、A拠点の頑張りで覆い隠されている状態です。
C拠点の赤字が一時的なものなら問題ありませんが、構造的なものであれば、対策が遅れるほど傷が深くなります。合算の数字は、問題を見えなくするという性質を持っています。
拠点別損益を作る手順
手順1:管理する単位を決める
まず、どの単位で損益を分けるかを決めます。拠点別(A施設・B施設・C施設)が基本ですが、1拠点で複数サービスを運営している場合は、拠点 × サービス種別まで分けると、より詳しく見えます。最初は拠点別の大きな括りから始め、慣れてきたら細かくします。
手順2:収入を拠点に割り当てる
介護報酬は請求ソフトに拠点別・サービス別の実績が記録されているため、収入の配分は比較的明確です。自己負担・実費収入も拠点別に集計します。
手順3:費用を「直接費」と「本部費」に分ける
費用は2種類に分けて考えます。
| 費用の種類 | 配分方法 | |---|---| | 各拠点の人件費・材料費・水光熱費 | 拠点に直接計上 | | 拠点の家賃 | 各拠点に直接計上 | | 本部人件費(経営者・経理・採用担当など) | 利用者数比または売上比で配分 | | 共通システム費・本部経費 | 売上比または拠点数で配分 |
直接費は拠点にそのまま計上できます。難しいのは本部費の配分ですが、ここは合理的な基準を一つ決めて、毎月同じ基準で配分します。
手順4:毎月同じ形で並べる
配分ルールを決めたら、毎月同じ形式で拠点別損益を並べます。前月比・前年同月比で各拠点の推移を追い、悪化している拠点を早期に特定します。
つまずきやすいポイント
本部費の配分にこだわりすぎる
本部費をどう配分するかで完璧を求めると、いつまでも運用が始まりません。配分は「合理的で、毎月一貫していれば十分」です。むしろ、基準を毎月変えるほうが問題で、拠点間の比較ができなくなります。一度決めたら固定します。
クラウド会計の部門機能を使っていない
freee・マネーフォワードには部門設定機能があり、仕訳入力時に拠点(部門)を紐づけるだけで、拠点別の損益が自動集計されます。Excelで毎月手集計している施設も多いですが、会計ソフトの機能を使えば手間は大きく減ります。
赤字拠点を「全体で黒字だから」と放置する
最もよくある失敗です。拠点別に分けて赤字が見えても、「会社全体では黒字だから」と対策を先送りにすると、赤字が定着します。見えたら、原因の切り分けまで進めます。
具体例:赤字拠点の「中身」で判断が変わる
2拠点が同じ−150万円の赤字だったとします。D拠点は開設半年で稼働率が65%。E拠点は開設3年で稼働率が90%あるのに赤字。同じ赤字額でも、D拠点は稼働率の上昇とともに黒字化が見込める一時的な赤字、E拠点は稼働していても利益が出ない構造的な赤字です。E拠点は人員配置・加算取得・固定費の水準を見直す必要があります。拠点別損益は、赤字額そのものより「なぜ赤字か」を読むためにあります。
関連サービス
クラウド会計の部門設定から、拠点別・サービス別の月次損益の集計・分析までを支援しています。複数拠点の数字を毎月同じ形で見える化し、問題のある拠点を早く特定できる状態を整えます。
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よくある質問
執筆者
萩原裕司
公認会計士・税理士