介護施設では稼働率が利益に直結します。固定費が大きい収益構造のため、稼働率がある水準を超えると利益が一気に伸びます。稼働率と利益率の関係、損益分岐点となる稼働率の考え方を、介護事業の収益構造に沿って実務目線で整理します。
介護施設は「稼働率がある水準を超えると利益が一気に伸びる」
介護施設の稼働率と利益率の関係を一言でいえば、稼働率が損益分岐点を超えると、それ以降の売上はほぼそのまま利益になるということです。介護事業は人件費や家賃といった固定費の割合が大きく、利用者が増えても費用はあまり変わりません。だから稼働率が上がった分の売上の多くが、利益に直結します。
逆もまた厳しく、稼働率が損益分岐点を下回ると、固定費を売上で賄えなくなり一気に赤字に転じます。稼働率は売上の大小を決めるだけでなく、利益率そのものを大きく左右する指標です。介護施設の経営で稼働率が繰り返し問われるのは、この収益構造があるからです。
稼働率そのものの重要性は介護施設の稼働率はどこまで重要?で整理しています。本記事は、稼働率が利益率にどう効くかという関係に絞ります。
なぜ固定費構造だと稼働率が利益を左右するのか
介護施設の費用は、人件費・家賃・減価償却など、利用者数が増減してもあまり変わらない固定費が中心です。利用者が1人増えても、職員を即座に増やすわけではなく、家賃も変わりません。
つまり、損益分岐点を超えてからの利用者1人あたりの売上は、変動費を引いたほぼ全額が利益に乗ります。これが「稼働率が上がると利益率が跳ね上がる」理由です。同時に、損益分岐点付近では稼働率のわずかな低下が利益を大きく削ります。固定費型の収益構造では、稼働率の数%が経営の明暗を分けるのです。だからこそ、自施設の損益分岐点となる稼働率を知っておくことに意味があります。
よくある課題
損益分岐点となる稼働率を把握していない
何%を割ると赤字になるのかを知らないまま運営しているケースです。基準がないと、稼働率の低下が危険水準かどうか判断できません。
稼働率の低下を月次で把握できていない
稼働率が下がっても気づくのが遅れ、赤字が積み上がってから対応するパターンです。固定費型では、低下の放置が直接損失につながります。
稼働率だけ見て人件費率を見ていない
稼働率は高いのに利益が出ない、という場合は人件費率に原因があることが多いものです。稼働率だけでは利益の実態は分かりません。
実務で起きる問題
ある住宅型有料老人ホームの例です。定員に対して稼働率は9割前後で推移しており、役員は「埋まっているから大丈夫」と考えていました。ところが営業利益は薄く、なぜ利益が残らないのか分からない状態でした。
損益分岐点を計算してみると、この施設は稼働率85%前後で利益がゼロになる構造で、9割でも分岐点をわずかに超えているだけでした。固定費が重く、損益分岐点が高い位置にあったのです。さらに人件費率が高止まりしており、稼働率で稼いだ利益を人件費が削っていました。そこで損益分岐点を意識した目標稼働率を設定し直し、あわせて人員配置を見直したところ、同じ稼働率でも利益が残るようになりました。「埋まっている」という感覚と、損益分岐点という基準では、見える景色がまったく違ったのです。
改善方法
ステップ1:自施設の損益分岐点となる稼働率を計算する
固定費を利用者1人あたりの利益貢献額で割り、利益がゼロになる稼働率を求めます。これが経営判断の基準になります。
ステップ2:目標稼働率を損益分岐点の上に設定する
損益分岐点を踏まえ、十分な利益が残る水準に目標稼働率を置きます。「定員を埋める」ではなく「分岐点を何ポイント上回る」という発想に切り替えます。
ステップ3:稼働率を月次で定点観測する
毎月の稼働率を損益分岐点と並べて確認し、低下の兆候を早く捉えます。固定費型では、早期発見が利益を守る最大の手段です。
ステップ4:人件費率とあわせて利益を確認する
稼働率が目標を満たしても、人件費率が高ければ利益は残りません。稼働率・人件費率・加算を合わせて見て、利益の実態を確認します。
人件費率の見方は介護施設の人件費率はどれくらいが理想?で整理しています。
関連サービス
月次経営レポート構築の支援では、自施設の損益分岐点となる稼働率を算出し、毎月の稼働率を基準と並べて確認できる資料を整えます。稼働率と人件費率、加算の状況を一つの資料で把握できる形にし、「埋まっているのに利益が出ない」状態の原因が見えるようにします。感覚ではなく、損益分岐点という基準で稼働を判断できる経営を支援します。
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よくある質問
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執筆者
萩原裕司
公認会計士・税理士