介護経営

特養の人件費率はどれくらいが目安か|数字の見方と改善の考え方

特別養護老人ホームの人件費率はどれくらいが目安なのか。特養は人員配置基準が厳しく人件費率が高くなりやすい業態です。目安の数字だけを追うのではなく、自施設の数字をどう読み、何を改善すべきかを実務目線で解説します。

目安は「60〜70%台」、ただし数字合わせが目的ではない

特別養護老人ホーム(特養)の人件費率は、おおむね60%台後半から70%台前半に収まっている施設が多いとされます。特養は人員配置基準が厳しく、入所者に対して一定の介護・看護職員を必ず配置する必要があるため、人件費率は構造的に高くなる業態です。

ただし、結論として伝えたいのは、目安の数字に自施設を合わせにいくことが目的ではない、という点です。定員規模、常勤・非常勤の比率、処遇改善加算を計算に含めるかどうかで、人件費率は簡単に数ポイント動きます。大切なのは、自施設の人件費率を毎月同じ基準で把握し、「なぜこの水準なのか」「先月とどう変わったのか」を説明できる状態にすることです。

なぜ特養で人件費率が重要なのか

特養の費用構造は、人件費の比重が非常に大きいのが特徴です。建物の減価償却や水光熱費もありますが、コストの大部分は職員の給与・賞与・法定福利費です。つまり、人件費率の動きがそのまま利益の動きに直結します

特養の収入は、入所者の介護報酬が中心で、稼働率(入所率)が安定していれば収入は読みやすい構造です。その一方で、人件費は配置基準を満たす必要があるため、稼働率が一時的に落ちても簡単には下げられません。この「収入は動くのに人件費は動きにくい」という非対称性が、特養の経営で人件費率を毎月見るべき理由です。

よくある課題

業界平均の数字だけで一喜一憂する

「特養の人件費率の平均は◯%」という数字を見て、自施設が上回っていると不安になり、下回っていると安心する——これはあまり意味がありません。計算方法も施設の条件も違うため、外部の平均値は参考程度にしかなりません。

処遇改善加算の扱いがバラバラ

人件費率を計算するとき、処遇改善加算を収入・人件費に含めるかどうかで結果が変わります。月によって含めたり含めなかったりすると、推移そのものが信用できなくなります。

年に一度、決算でしか見ていない

決算で人件費率を確認しても、それは1年間の平均です。年度の途中で稼働率が落ちて率が悪化していても、決算まで気づけません。

実務で起きる問題

ある特養の例です。決算では人件費率が70%で「特養としては標準的」と判断していました。ところが月次で分解してみると、上半期は67%、下半期は73%と大きく動いていました。

原因は、下半期に入所者の退所が続いて稼働率が低下し、収入(分母)が縮んだことでした。配置基準があるため職員数は減らせず、人件費(分子)はほぼ横ばい。結果として下半期だけ人件費率が悪化していたのです。

決算の「70%」という1つの数字だけを見ていたら、この悪化は見えませんでした。人件費率は、稼働率とセットで月次の推移で見て初めて、手を打つべきタイミングが分かります。この施設では、空床が出た時点で入所調整を早める運用に変え、稼働率の回復で率を戻すことができました。

改善方法

ステップ1:計算方法を固定する

人件費率=人件費 ÷ 収入。この「人件費」「収入」に何を含めるか(処遇改善加算・法定福利費・派遣費用など)を一度決め、毎月同じ基準で計算します。比較できる数字にすることが出発点です。

ステップ2:稼働率と並べて毎月見る

人件費率の隣に、必ず稼働率を並べます。率が悪化したときに「収入が減ったのか」「人件費が増えたのか」を切り分けられるようにします。多くの場合、特養の率の悪化は稼働率の低下が原因です。

ステップ3:分母(収入)を先に立て直す

率を下げたいとき、まず検討すべきは人件費の削減ではなく稼働率の回復です。空床を早く埋め、加算の取りこぼしをなくすことで、分母が回復し率は改善します。配置基準のある特養で人を減らすのは、サービス品質と加算要件に直結するため最後の手段です。

ステップ4:人件費の中身を点検する

そのうえで、残業の常態化、シフトの偏り、派遣依存の高さなど、人件費の中身を点検します。同じ人件費でも、配置の最適化で生産性を上げられる余地があります。

関連サービス

事業別・部門別損益管理の支援では、特養の人件費率を毎月同じ基準で算出し、稼働率とあわせて推移を見える化します。率の悪化が「収入の縮小」によるものか「人件費の増加」によるものかを切り分け、手を打つべき場所を明確にします。

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よくある質問

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執筆者

萩原裕司

公認会計士・税理士